第5編 相続/令和1年7月1日施行版
第1章 総則 (第882条―第885条)
第882条 (相続開始の原因)
相続は、死亡によって開始する。
第883条 (相続開始の場所)
相続は、被相続人の住所において開始する。
第884条 (相続回復請求権)
相続回復の請求権は、相続人又はその法定代理人が相続権を侵害された事実を知った時から五年間行使しないときは、時効によって消滅する。相続開始の時から二十年を経過したときも、同様とする。
第885条 (相続財産に関する費用)
相続財産に関する費用は、その財産の中から支弁する。ただし、相続人の過失によるものは、この限りでない。
第2章 相続人 (第886条―第895条)
第886条 (相続に関する胎児の権利能力)
胎児は、相続については、既に生まれたものとみなす。
2 前項の規定は、胎児が死体で生まれたときは、適用しない。
第887条 (子及びその代襲者等の相続権)
被相続人の子は、相続人となる。
2 被相続人の子が、相続の開始以前に死亡したとき、又は第891条(相続人の欠格事由)の規定に該当し、若しくは廃除によって、その相続権を失ったときは、その者の子がこれを代襲して相続人となる。ただし、被相続人の直系卑属でない者は、この限りでない。
3 前項の規定は、代襲者が、相続の開始以前に死亡し、又は第891条(相続人の欠格事由)の規定に該当し、若しくは廃除によって、その代襲相続権を失った場合について準用する。
第888条 削除
第889条 (直系尊属及び兄弟姉妹の相続権)
次に掲げる者は、第887条(子及びその代襲者等の相続権)の規定により相続人となるべき者がない場合には、次に掲げる順序の順位に従って相続人となる。
一 被相続人の直系尊属。ただし、親等の異なる者の間では、その近い者を先にする。
二 被相続人の兄弟姉妹
2 第887条第2項(代襲者)の規定は、前項第2号の場合について準用する。
第890条 (配偶者の相続権)
被相続人の配偶者は、常に相続人となる。この場合において、第887条(子及びその代襲者等の相続権)又は前条の規定により相続人となるべき者があるときは、その者と同順位とする。
第891条 (相続人の欠格事由)
次に掲げる者は、相続人となることができない。
一 故意に被相続人又は相続について先順位若しくは同順位にある者を死亡するに至らせ、又は至らせようとしたために、刑に処せられた者
二 被相続人の殺害されたことを知って、これを告発せず、又は告訴しなかった者。ただし、その者に是非の弁別がないとき、又は殺害者が自己の配偶者若しくは直系血族であったときは、この限りでない。
三 詐欺又は強迫によって、被相続人が相続に関する遺言をし、撤回し、取り消し、又は変更することを妨げた者
四 詐欺又は強迫によって、被相続人に相続に関する遺言をさせ、撤回させ、取り消させ、又は変更させた者
五 相続に関する被相続人の遺言書を偽造し、変造し、破棄し、又は隠匿した者
第892条 (推定相続人の廃除)
遺留分を有する推定相続人(相続が開始した場合に相続人となるべき者をいう。以下同じ。)が、被相続人に対して虐待をし、若しくはこれに重大な侮辱を加えたとき、又は推定相続人にその他の著しい非行があったときは、被相続人は、その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求することができる。
第893条 (遺言による推定相続人の廃除)
被相続人が遺言で推定相続人を廃除する意思を表示したときは、遺言執行者は、その遺言が効力を生じた後、遅滞なく、その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求しなければならない。この場合において、その推定相続人の廃除は、被相続人の死亡の時にさかのぼってその効力を生ずる。
第894条 (推定相続人の廃除の取消し)
被相続人は、いつでも、推定相続人の廃除の取消しを家庭裁判所に請求することができる。
2 前条の規定は、推定相続人の廃除の取消しについて準用する。
第895条 (推定相続人の廃除に関する審判確定前の遺産の管理)
推定相続人の廃除又はその取消しの請求があった後その審判が確定する前に相続が開始したときは、家庭裁判所は、親族、利害関係人又は検察官の請求によって、遺産の管理について必要な処分を命ずることができる。推定相続人の廃除の遺言があったときも、同様とする。
2 第27条(管理人の職務)から第29条(管理人の担保提供及び報酬)までの規定は、前項の規定により家庭裁判所が遺産の管理人を選任した場合について準用する。
第3章 相続の効力
第1節 総則 (第896条―第899条)
第896条 (相続の一般的効力)
相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。ただし、被相続人の一身に専属したものは、この限りでない。
第897条 (祭祀に関する権利の承継)
系譜、祭具及び墳墓の所有権は、前条の規定にかかわらず、慣習に従って祖先の祭祀を主宰すべき者が承継する。ただし、被相続人の指定に従って祖先の祭祀を主宰すべき者があるときは、その者が承継する。
2 前項本文の場合において慣習が明らかでないときは、同項の権利を承継すべき者は、家庭裁判所が定める。
第898条 (共同相続の効力)
相続人が数人あるときは、相続財産は、その共有に属する。
第899条
各共同相続人は、その相続分に応じて被相続人の権利義務を承継する。
第899条の2 (共同相続における権利の承継の対抗要件)(新設)
相続による権利の承継は、遺産の分割によるものかどうかにかかわらず、次条及び第九百一条の規定により算定した相続分を超える部分については、登記、登録その他の対抗要件を備えなければ、第三者に対抗することができない。
2 前項の権利が債権である場合において、次条(法定相続分)及び第901条(代襲相続人の相続分)の規定により算定した相続分を超えて当該債権を承継した共同相続人が当該債権に係る遺言の内容(遺産の分割により当該債権を承継した場合にあっては、当該債権に係る遺産の分割の内容)を明らかにして債務者にその承継の通知をしたときは、共同相続人の全員が債務者に通知をしたものとみなして、同項の規定を適用する。
第2節 相続分 (第900条―第905条)
第900条(法定相続分)
同順位の相続人が数人あるときは、その相続分は、次の各号の定めるところによる。
一 子及び配偶者が相続人であるときは、子の相続分及び配偶者の相続分は、各二分の一とする。
二 配偶者及び直系尊属が相続人であるときは、配偶者の相続分は、三分の二とし、直系尊属の相続分は、三分の一とする。
三 配偶者及び兄弟姉妹が相続人であるときは、配偶者の相続分は、四分の三とし、兄弟姉妹の相続分は、四分の一とする。
四 子、直系尊属又は兄弟姉妹が数人あるときは、各自の相続分は、相等しいものとする。ただし、父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹の相続分は、父母の双方を同じくする兄弟姉妹の相続分の二分の一とする。
第901条 (代襲相続人の相続分)
第887条第2項(子の代襲者)又は第3項(代襲相続権の喪失)の規定により相続人となる直系卑属の相続分は、その直系尊属が受けるべきであったものと同じとする。ただし、直系卑属が数人あるときは、その各自の直系尊属が受けるべきであった部分について、前条の規定に従ってその相続分を定める。
2 前項の規定は、第889条第2項(兄弟姉妹の相続権)の規定により兄弟姉妹の子が相続人となる場合について準用する。
第902条(遺言による相続分の指定)
被相続人は、前二条の規定にかかわらず、遺言で、共同相続人の相続分を定め、又はこれを定めることを第三者に委託することができる。ただし、被相続人又は第三者は、遺留分に関する規定に違反することができない。
2 被相続人が、共同相続人中の一人若しくは数人の相続分のみを定め、又はこれを第三者に定めさせたときは、他の共同相続人の相続分は、前2条の規定により定める。
第902条の2(相続分の指定がある場合の債権者の権利の行使)(新設)
被相続人が相続開始の時において有した債務の債権者は、前条の規定による相続分の指定がされた場合であっても、各共同相続人に対し、第900条(法定相続分)及び第901条(代襲相続人の相続分)の規定により算定した相続分に応じてその権利を行使することができる。ただし、その債権者が共同相続人の一人に対してその指定された相続分に応じた債務の承継を承認したときは、この限りでない。
第903条(特別受益者の相続分)
共同相続人中に、被相続人から、遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし、第900条(法定相続分)及び第901条(遺言による相続分の指定)までの規定により算定した相続分の中からその遺贈又は贈与の価額を控除した残額をもってその者の相続分とする。
2 遺贈又は贈与の価額が、相続分の価額に等しく、又はこれを超えるときは、受遺者又は受贈者は、その相続分を受けることができない。
3 被相続人が前2項の規定と異なった意思を表示したときは、その意思に従う。
4 婚姻期間が二十年以上の夫婦の一方である被相続人が、他の一方に対し、その居住の用に供する建物又はその敷地について遺贈又は贈与をしたときは、当該被相続人は、その遺贈又は贈与について第一項の規定を適用しない旨の意思を表示したものと推定する。
第904条
前条に規定する贈与の価額は、受贈者の行為によって、その目的である財産が滅失し、又はその価格の増減があったときであっても、相続開始の時においてなお原状のままであるものとみなしてこれを定める。
第904条の2 (寄与分)
共同相続人中に、被相続人の事業に関する労務の提供又は財産上の給付、被相続人の療養看護その他の方法により被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から共同相続人の協議で定めたその者の寄与分を控除したものを相続財産とみなし、第900条(法定相続分)から第902条(遺言よる相続分の指定)までの規定により算定した相続分に寄与分を加えた額をもってその者の相続分とする。
2 前項の協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所は、同項に規定する寄与をした者の請求により、寄与の時期、方法及び程度、相続財産の額その他一切の事情を考慮して、寄与分を定める。
3 寄与分は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から遺贈の価額を控除した残額を超えることができない。
4 第2項の請求は、第907条第2項(遺産分割の家庭裁判所への請求)の規定による請求があった場合又は第910条(相続の開始後に認知された者の価額の支払請求権)に規定する場合にすることができる。
第905条 (相続分の取戻権)
共同相続人の一人が遺産の分割前にその相続分を第三者に譲り渡したときは、他の共同相続人は、その価額及び費用を償還して、その相続分を譲り受けることができる。
2 前項の権利は、一箇月以内に行使しなければならない。
第3節 遺産の分割 (第906条―第914条)
第906条 (遺産の分割の基準)
遺産の分割は、遺産に属する物又は権利の種類及び性質、各相続人の年齢、職業、心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮してこれをする。
第906条の2 (遺産の分割前に遺産に属する財産が処分された場合の遺産の範囲)(新設)
遺産の分割前に遺産に属する財産が処分された場合であっても、共同相続人は、その全員の同意により、当該処分された財産が遺産の分割時に遺産として存在するものとみなすことができる。
2 前項の規定にかかわらず、共同相続人の一人又は数人により同項の財産が処分されたときは、当該共同相続人については、同項の同意を得ることを要しない。
第907条 (遺産の分割の協議又は審判等)
共同相続人は、次条の規定により被相続人が遺言で禁じた場合を除き、いつでも、その協議で、遺産の全部又は一部の分割をすることができる。
2 遺産の分割について、共同相続人間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、各共同相続人は、その全部又は一部の分割を家庭裁判所に請求することができる。ただし、遺産の一部を分割することにより他の共同相続人の利益を害するおそれがある場合におけるその一部の分割については、この限りでない。
3 前項本文の場合において特別の事由があるときは、家庭裁判所は、期間を定めて、遺産の全部又は一部について、その分割を禁ずることができる。
第908条 (遺産の分割の方法の指定及び遺産の分割の禁止)
被相続人は、遺言で、遺産の分割の方法を定め、若しくはこれを定めることを第三者に委託し、又は相続開始の時から五年を超えない期間を定めて、遺産の分割を禁ずることができる。
第909条 (遺産の分割の効力)
遺産の分割は、相続開始の時にさかのぼってその効力を生ずる。ただし、第三者の権利を害することはできない。
第909条 の2(遺産の分割前における預貯金債権の行使)(新設)
各共同相続人は、遺産に属する預貯金債権のうち相続開始の時の債権額の三分の一に第900条(法定相続分)及び第901条(代襲相続人の相続分)の規定により算定した当該共同相続人の相続分を乗じた額(標準的な当面の必要生計費、平均的な葬式の費用の額その他の事情を勘案して預貯金債権の債務者ごとに法務省令で定める額を限度とする。)については、単独でその権利を行使することができる。この場合において、当該権利の行使をした預貯金債権については、当該共同相続人が遺産の一部の分割によりこれを取得したものとみなす。
第910条 (相続の開始後に認知された者の価額の支払請求権)
相続の開始後認知によって相続人となった者が遺産の分割を請求しようとする場合において、他の共同相続人が既にその分割その他の処分をしたときは、価額のみによる支払の請求権を有する。
第911条 (共同相続人間の担保責任)
各共同相続人は、他の共同相続人に対して、売主と同じく、その相続分に応じて担保の責任を負う。
第912条 (遺産の分割によって受けた債権についての担保責任)
各共同相続人は、その相続分に応じ、他の共同相続人が遺産の分割によって受けた債権について、その分割の時における債務者の資力を担保する。
2 弁済期に至らない債権及び停止条件付きの債権については、各共同相続人は、弁済をすべき時における債務者の資力を担保する。
第913条 (資力のない共同相続人がある場合の担保責任の分担)
担保の責任を負う共同相続人中に償還をする資力のない者があるときは、その償還することができない部分は、求償者及び他の資力のある者が、それぞれその相続分に応じて分担する。ただし、求償者に過失があるときは、他の共同相続人に対して分担を請求することができない。
第914条 (遺言による担保責任の定め)
前3条の規定は、被相続人が遺言で別段の意思を表示したときは、適用しない。
第4章 相続の承認及び放棄
第1節 総則 (第915条―第919条)
第915条 (相続の承認又は放棄をすべき期間)
相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月以内に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない。ただし、この期間は、利害関係人又は検察官の請求によって、家庭裁判所において伸長することができる。
2 相続人は、相続の承認又は放棄をする前に、相続財産の調査をすることができる。
第916条
相続人が相続の承認又は放棄をしないで死亡したときは、前条第1項の期間は、その者の相続人が自己のために相続の開始があったことを知った時から起算する。
第917条
相続人が未成年者又は成年被後見人であるときは、第915条第1項(相続の承認又は放棄をすべき期間)の期間は、その法定代理人が未成年者又は成年被後見人のために相続の開始があったことを知った時から起算する。
第918条 (相続財産の管理)
相続人は、その固有財産におけるのと同一の注意をもって、相続財産を管理しなければならない。ただし、相続の承認又は放棄をしたときは、この限りでない。
2 家庭裁判所は、利害関係人又は検察官の請求によって、いつでも、相続財産の保存に必要な処分を命ずることができる。
3 第27条(管理人の職務)から第29条(管理人の担保提供及び報酬)までの規定は、前項の規定により家庭裁判所が相続財産の管理人を選任した場合について準用する。
第919条 (相続の承認及び放棄の撤回及び取消し)
相続の承認及び放棄は、第915条第1項(相続の承認又は放棄をすべき期間)の期間内でも、撤回することができない。
2 前項の規定は、第1編(総則)及び前編(親族)の規定により相続の承認又は放棄の取消しをすることを妨げない。
3 前項の取消権は、追認をすることができる時から六箇月間行使しないときは、時効によって消滅する。相続の承認又は放棄の時から十年を経過したときも、同様とする。
4 第2項の規定により限定承認又は相続の放棄の取消しをしようとする者は、その旨を家庭裁判所に申述しなければならない。
第2節 相続の承認
第1款 単純承認 (第920条・第921条)
第920条 (単純承認の効力)
相続人は、単純承認をしたときは、無限に被相続人の権利義務を承継する。
第921条 (法定単純承認)
次に掲げる場合には、相続人は、単純承認をしたものとみなす。
一 相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき。ただし、保存行為及び第602条の(短期賃貸借)に定める期間を超えない賃貸をすることは、この限りでない。
二 相続人が第915条第1項(相続の承認又は放棄をすべき期間)の期間内に限定承認又は相続の放棄をしなかったとき。
三 相続人が、限定承認又は相続の放棄をした後であっても、相続財産の全部若しくは一部を隠匿し、私にこれを消費し、又は悪意でこれを相続財産の目録中に記載しなかったとき。ただし、その相続人が相続の放棄をしたことによって相続人となった者が相続の承認をした後は、この限りでない。
第2款 限定承認 (第922条―第937条)
第922条 (限定承認)
相続人は、相続によって得た財産の限度においてのみ被相続人の債務及び遺贈を弁済すべきことを留保して、相続の承認をすることができる。
第923条 (共同相続人の限定承認)
相続人が数人あるときは、限定承認は、共同相続人の全員が共同してのみこれをすることができる。
第924条 (限定承認の方式)
相続人は、限定承認をしようとするときは、第915条第1項(相続の承認又は放棄をすべき期間)の期間内に、相続財産の目録を作成して家庭裁判所に提出し、限定承認をする旨を申述しなければならない。
第925条 (限定承認をしたときの権利義務)
相続人が限定承認をしたときは、その被相続人に対して有した権利義務は、消滅しなかったものとみなす。
第926条 (限定承認者による管理)
限定承認者は、その固有財産におけるのと同一の注意をもって、相続財産の管理を継続しなければならない。
2 第645条(受任者による報告)、第646条(受任者による受取物の引渡し等)、第650条第1項(受任者による費用等の償還請求)及び第2項(委任者に対する代位弁済請求)並びに第918条第2項(家庭裁判所の相続財産の保存処分命令)及び第3項(家庭裁判所による相続財産管理人の選任)の規定は、前項の場合について準用する。
第927条 (相続債権者及び受遺者に対する公告及び催告)
限定承認者は、限定承認をした後五日以内に、すべての相続債権者(相続財産に属する債務の債権者をいう。以下同じ。)及び受遺者に対し、限定承認をしたこと及び一定の期間内にその請求の申出をすべき旨を公告しなければならない。この場合において、その期間は、二箇月を下ることができない。
2 前項の規定による公告には、相続債権者及び受遺者がその期間内に申出をしないときは弁済から除斥されるべき旨を付記しなければならない。ただし、限定承認者は、知れている相続債権者及び受遺者を除斥することができない。
3 限定承認者は、知れている相続債権者及び受遺者には、各別にその申出の催告をしなければならない。
4 第1項の規定による公告は、官報に掲載してする。
第928条 (公告期間満了前の弁済の拒絶)
限定承認者は、前条第1項(相続債権者及び受遺者への請求の申し出をすべき旨の公告)期間の満了前には、相続債権者及び受遺者に対して弁済を拒むことができる。
第929条 (公告期間満了後の弁済)
第927条第1項(相続債権者及び受遺者への請求の申し出をすべき旨の公告)期間が満了した後は、限定承認者は、相続財産をもって、その期間内に同項の申出をした相続債権者その他知れている相続債権者に、それぞれその債権額の割合に応じて弁済をしなければならない。ただし、優先権を有する債権者の権利を害することはできない。
第930条 (期限前の債務等の弁済)
限定承認者は、弁済期に至らない債権であっても、前条の規定に従って弁済をしなければならない。
2 条件付きの債権又は存続期間の不確定な債権は、家庭裁判所が選任した鑑定人の評価に従って弁済をしなければならない。
第931条 (受遺者に対する弁済)
限定承認者は、前2条の規定に従って各相続債権者に弁済をした後でなければ、受遺者に弁済をすることができない。
第932条 (弁済のための相続財産の換価)
前3条の規定に従って弁済をするにつき相続財産を売却する必要があるときは、限定承認者は、これを競売に付さなければならない。ただし、家庭裁判所が選任した鑑定人の評価に従い相続財産の全部又は一部の価額を弁済して、その競売を止めることができる。
第933条 (相続債権者及び受遺者の換価手続への参加)
相続債権者及び受遺者は、自己の費用で、相続財産の競売又は鑑定に参加することができる。この場合においては、第260条第2項((共有物の分割参加請求者の対抗要件)の規定を準用する。
第934条 (不当な弁済をした限定承認者の責任等)
限定承認者は、第927条の公告若しくは催告をすることを怠り、又は同条第1項の期間内に相続債権者若しくは受遺者に弁済をしたことによって他の相続債権者若しくは受遺者に弁済をすることができなくなったときは、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。第929条(公告期間満了後の弁済)から第931条(受遺者に対する弁済)までの規定に違反して弁済をしたときも、同様とする。
2 前項の規定は、情を知って不当に弁済を受けた相続債権者又は受遺者に対する他の相続債権者又は受遺者の求償を妨げない。
3 第724条(不法行為による損害賠償請求権の期間の制限)の規定は、前二項の場合について準用する。
第935条 (公告期間内に申出をしなかった相続債権者及び受遺者)
第927条第1項(相続債権者及び受遺者への請求の申し出をすべき旨の公告)期間内に同項の申出をしなかった相続債権者及び受遺者で限定承認者に知れなかったものは、残余財産についてのみその権利を行使することができる。ただし、相続財産について特別担保を有する者は、この限りでない。
第936条 (相続人が数人ある場合の相続財産の管理人)
相続人が数人ある場合には、家庭裁判所は、相続人の中から、相続財産の管理人を選任しなければならない。
2 前項の相続財産の管理人は、相続人のために、これに代わって、相続財産の管理及び債務の弁済に必要な一切の行為をする。
3 第926条(限定承認者による管理)から前条までの規定は、第1項の相続財産の管理人について準用する。この場合において、第927条第1項中「限定承認をした後五日以内」とあるのは、「その相続財産の管理人の選任があった後十日以内」と読み替えるものとする。
第937条 (法定単純承認の事由がある場合の相続債権者)
限定承認をした共同相続人の一人又は数人について第921条第1号(相続財産の全部または一部の処分)又は第3号(相続財産の全部若しくは一部の隠匿)に掲げる事由があるときは、相続債権者は、相続財産をもって弁済を受けることができなかった債権額について、当該共同相続人に対し、その相続分に応じて権利を行使することができる。
第3節 相続の放棄 (第938条―第940条)
第938条 (相続の放棄の方式)
相続の放棄をしようとする者は、その旨を家庭裁判所に申述しなければならない。
第939条 (相続の放棄の効力)
相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす。
第940条 (相続の放棄をした者による管理)
相続の放棄をした者は、その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければならない。
2 第645条(受任者による報告)、第646条(受任者による受取物の引渡し等)、第650条第1項(受任者による利息の償還請求)及び第2項(委任者に対する代位弁済請求)並びに第918条第2項(家庭裁判所による相続財産の保存処理命令)及び第3項(家庭裁判所による相続財産管理人の選任)の規定は、前項の場合について準用する。
第5章 財産分離 (第941条―第950条)
第941条 (相続債権者又は受遺者の請求による財産分離)
相続債権者又は受遺者は、相続開始の時から三箇月以内に、相続人の財産の中から相続財産を分離することを家庭裁判所に請求することができる。相続財産が相続人の固有財産と混合しない間は、その期間の満了後も、同様とする。
2 家庭裁判所が前項の請求によって財産分離を命じたときは、その請求をした者は、五日以内に、他の相続債権者及び受遺者に対し、財産分離の命令があったこと及び一定の期間内に配当加入の申出をすべき旨を公告しなければならない。この場合において、その期間は、二箇月を下ることができない。
3 前項の規定による公告は、官報に掲載してする。
第942条 (財産分離の効力)
財産分離の請求をした者及び前条第2項の規定により配当加入の申出をした者は、相続財産について、相続人の債権者に先立って弁済を受ける。
第943条 (財産分離の請求後の相続財産の管理)
財産分離の請求があったときは、家庭裁判所は、相続財産の管理について必要な処分を命ずることができる。
2 第27条(管理人の職務)から第29条(管理人の担保提供及び報酬)までの規定は、前項の規定により家庭裁判所が相続財産の管理人を選任した場合について準用する。
第944条 (財産分離の請求後の相続人による管理)
相続人は、単純承認をした後でも、財産分離の請求があったときは、以後、その固有財産におけるのと同一の注意をもって、相続財産の管理をしなければならない。ただし、家庭裁判所が相続財産の管理人を選任したときは、この限りでない。
2 第645条(共同保証人間の求償権)から第647条(指名債権の譲渡の対抗要件)まで並びに第650条第1項(受任者による利息の償還請求)及び第2項(委任者に対する代位弁済請求)の規定は、前項の場合について準用する。
第945条 (不動産についての財産分離の対抗要件)
財産分離は、不動産については、その登記をしなければ、第三者に対抗することができない。
第946条 (物上代位の規定の準用)
第304条(物上代位)の規定は、財産分離の場合について準用する。
第947条 (相続債権者及び受遺者に対する弁済)
続人は、第941条第1項及び第2項(配当加入の申出をすべき旨の広告)期間の満了前には、相続債権者及び受遺者に対して弁済を拒むことができる。
2 財産分離の請求があったときは、相続人は、第941条第2項(配当加入の申出をすべき旨の広告)期間の満了後に、相続財産をもって、財産分離の請求又は配当加入の申出をした相続債権者及び受遺者に、それぞれその債権額の割合に応じて弁済をしなければならない。ただし、優先権を有する債権者の権利を害することはできない。
3 第930条(期限前の債務等の弁済)から第934条(不当な弁済をした限定承認者の責任等)までの規定は、前項の場合について準用する。
第948条 (相続人の固有財産からの弁済)
財産分離の請求をした者及び配当加入の申出をした者は、相続財産をもって全部の弁済を受けることができなかった場合に限り、相続人の固有財産についてその権利を行使することができる。この場合においては、相続人の債権者は、その者に先立って弁済を受けることができる。
第949条 (財産分離の請求の防止等)
相続人は、その固有財産をもって相続債権者若しくは受遺者に弁済をし、又はこれに相当の担保を供して、財産分離の請求を防止し、又はその効力を消滅させることができる。ただし、相続人の債権者が、これによって損害を受けるべきことを証明して、異議を述べたときは、この限りでない。
第950条 (相続人の債権者の請求による財産分離)
相続人が限定承認をすることができる間又は相続財産が相続人の固有財産と混合しない間は、相続人の債権者は、家庭裁判所に対して財産分離の請求をすることができる。
2 第304条(物上代位)、第925条(限定承認をしたときの権利義務)、第927条(相続債権者及び受遺者に対する公告及び催告)から第934条(不当な弁済をした限定承認者の責任等)まで、第943条(財産分離の請求後の相続財産の管理)から第945条(不動産についての財産分離の対抗要件)まで及び第948条(相続人の固有財産からの弁済)の規定は、前項の場合について準用する。ただし、第927条の公告及び催告は、財産分離の請求をした債権者がしなければならない。
第6章 相続人の不存在 (第951条―第959条)
第951条 (相続財産法人の成立)
相続人のあることが明らかでないときは、相続財産は、法人とする。
第952条 (相続財産の管理人の選任)
前条の場合には、家庭裁判所は、利害関係人又は検察官の請求によって、相続財産の管理人を選任しなければならない。
2 前項の規定により相続財産の管理人を選任したときは、家庭裁判所は、遅滞なくこれを公告しなければならない。
第953条 (不在者の財産の管理人に関する規定の準用)
第27条(管理人の職務)から第29条(管理人の担保提供及び報酬)までの規定は、前条第1項の相続財産の管理人(以下この章において単に「相続財産の管理人」という。)について準用する。
第954条 (相続財産の管理人の報告)
相続財産の管理人は、相続債権者又は受遺者の請求があるときは、その請求をした者に相続財産の状況を報告しなければならない。
第955条 (相続財産法人の不成立)
相続人のあることが明らかになったときは、第951条(相続財産)法人は、成立しなかったものとみなす。ただし、相続財産の管理人がその権限内でした行為の効力を妨げない。
第956条 (相続財産の管理人の代理権の消滅)
相続財産の管理人の代理権は、相続人が相続の承認をした時に消滅する。
2 前項の場合には、相続財産の管理人は、遅滞なく相続人に対して管理の計算をしなければならない。
第957条 (相続債権者及び受遺者に対する弁済)
第952条第2項(家庭裁判所による相続財産管理人の選任)の公告があった後二箇月以内に相続人のあることが明らかにならなかったときは、相続財産の管理人は、遅滞なく、すべての相続債権者及び受遺者に対し、一定の期間内にその請求の申出をすべき旨を公告しなければならない。この場合において、その期間は、二箇月を下ることができない。
2 第927条第2項(相続債権者及び受遺者への請求の申し出をすべき旨の公告)から第4項(官報掲載)まで及び第928条(公告期間満了前の弁済の拒絶)から第935条(公告期間内に申出をしなかった相続債権者及び受遺者)まで(第932条ただし書(相続財産の全部又は一部の価額弁済による競売の差し止め)を除く。)の規定は、前項の場合について準用する。
第958条 (相続人の捜索の公告)
前条第1項の期間の満了後、なお相続人のあることが明らかでないときは、家庭裁判所は、相続財産の管理人又は検察官の請求によって、相続人があるならば一定の期間内にその権利を主張すべき旨を公告しなければならない。この場合において、その期間は、六箇月を下ることができない。
第958条の2 (権利を主張する者がない場合)
前条の期間内に相続人としての権利を主張する者がないときは、相続人並びに相続財産の管理人に知れなかった相続債権者及び受遺者は、その権利を行使することができない。
第958条の3 (特別縁故者に対する相続財産の分与)
前条の場合において、相当と認めるときは、家庭裁判所は、被相続人と生計を同じくしていた者、被相続人の療養看護に努めた者その他被相続人と特別の縁故があった者の請求によって、これらの者に、清算後残存すべき相続財産の全部又は一部を与えることができる。
2 前項の請求は、第958条(相続人の捜索の公告)期間の満了後三箇月以内にしなければならない。
第959条 (残余財産の国庫への帰属)
前条の規定により処分されなかった相続財産は、国庫に帰属する。この場合においては、第956条第2項(相続財産の管理人による管理計算)の規定を準用する。