編 章 節

第5節 債権の消滅

標準速度 1.25倍速 1.5倍速 1.75倍速 2倍速


第1款 弁済

第1目 総則 (第474条―第493条)

第474条 (第三者の弁済)
債務の弁済は、第三者もすることができる。ただし、その債務の性質がこれを許さないとき、又は当事者が反対の意思を表示したときは、この限りでない。
2 利害関係を有しない第三者は、債務者の意思に反して弁済をすることができない。

第475条 (弁済として引き渡した物の取戻し)
弁済をした者が弁済として他人の物を引き渡したときは、その弁済をした者は、更に有効な弁済をしなければ、その物を取り戻すことができない。

第476条
譲渡につき行為能力の制限を受けた所有者が弁済として物の引渡しをした場合において、その弁済を取り消したときは、その所有者は、更に有効な弁済をしなければ、その物を取り戻すことができない。

第477条 (弁済として引き渡した物の消費又は譲渡がされた場合の弁済の効力等)
前2条の場合において、債権者が弁済として受領した物を善意で消費し、又は譲り渡したときは、その弁済は、有効とする。この場合において、債権者が第三者から賠償の請求を受けたときは、弁済をした者に対して求償をすることを妨げない。

第478条 (債権の準占有者に対する弁済)
債権の準占有者に対してした弁済は、その弁済をした者が善意であり、かつ、過失がなかったときに限り、その効力を有する。

第479条 (受領する権限のない者に対する弁済)
前条の場合を除き、弁済を受領する権限を有しない者に対してした弁済は、債権者がこれによって利益を受けた限度においてのみ、その効力を有する。

第480条 (受取証書の持参人に対する弁済)
受取証書の持参人は、弁済を受領する権限があるものとみなす。ただし、弁済をした者がその権限がないことを知っていたとき、又は過失によって知らなかったときは、この限りでない。

第481条 (支払の差止めを受けた第三債務者の弁済)
支払の差止めを受けた第三債務者が自己の債権者に弁済をしたときは、差押債権者は、その受けた損害の限度において更に弁済をすべき旨を第三債務者に請求することができる。
2 前項の規定は、第三債務者からその債権者に対する求償権の行使を妨げない。

第482条 (代物弁済)
債務者が、債権者の承諾を得て、その負担した給付に代えて他の給付をしたときは、その給付は、弁済と同一の効力を有する。

第483条 (特定物の現状による引渡し)
債権の目的が特定物の引渡しであるときは、弁済をする者は、その引渡しをすべき時の現状でその物を引き渡さなければならない。

第484条 (弁済の場所)
弁済をすべき場所について別段の意思表示がないときは、特定物の引渡しは債権発生の時にその物が存在した場所において、その他の弁済は債権者の現在の住所において、それぞれしなければならない。

第485条 (弁済の費用)
弁済の費用について別段の意思表示がないときは、その費用は、債務者の負担とする。ただし、債権者が住所の移転その他の行為によって弁済の費用を増加させたときは、その増加額は、債権者の負担とする。

第486条 (受取証書の交付請求)
弁済をした者は、弁済を受領した者に対して受取証書の交付を請求することができる。

第487条 (債権証書の返還請求)
債権に関する証書がある場合において、弁済をした者が全部の弁済をしたときは、その証書の返還を請求することができる。

第488条 (弁済の充当の指定)
債務者が同一の債権者に対して同種の給付を目的とする数個の債務を負担する場合において、弁済として提供した給付がすべての債務を消滅させるのに足りないときは、弁済をする者は、給付の時に、その弁済を充当すべき債務を指定することができる。
2 弁済をする者が前項の規定による指定をしないときは、弁済を受領する者は、その受領の時に、その弁済を充当すべき債務を指定することができる。ただし、弁済をする者がその充当に対して直ちに異議を述べたときは、この限りでない。
3 前二項の場合における弁済の充当の指定は、相手方に対する意思表示によってする。

第489条 (法定充当)
弁済をする者及び弁済を受領する者がいずれも前条の規定による弁済の充当の指定をしないときは、次の各号の定めるところに従い、その弁済を充当する。
債務の中に弁済期にあるものと弁済期にないものとがあるときは、弁済期にあるものに先に充当する。
すべての債務が弁済期にあるとき、又は弁済期にないときは、債務者のために弁済の利益が多いものに先に充当する。
債務者のために弁済の利益が相等しいときは、弁済期が先に到来したもの又は先に到来すべきものに先に充当する。
前二号に掲げる事項が相等しい債務の弁済は、各債務の額に応じて充当する。

第490条 (数個の給付をすべき場合の充当)
一個の債務の弁済として数個の給付をすべき場合において、弁済をする者がその債務の全部を消滅させるのに足りない給付をしたときは、前2条の規定を準用する。

第491条 (元本、利息及び費用を支払うべき場合の充当)
債務者が一個又は数個の債務について元本のほか利息及び費用を支払うべき場合において、弁済をする者がその債務の全部を消滅させるのに足りない給付をしたときは、これを順次に費用、利息及び元本に充当しなければならない。
2 第489条(法定充当)の規定は、前項の場合について準用する。

第492条 (弁済の提供の効果)
債務者は、弁済の提供の時から、債務の不履行によって生ずべき一切の責任を免れる。

第493条 (弁済の提供の方法)
弁済の提供は、債務の本旨に従って現実にしなければならない。ただし、債権者があらかじめその受領を拒み、又は債務の履行について債権者の行為を要するときは、弁済の準備をしたことを通知してその受領の催告をすれば足りる。

弁済 総則 1.5倍速

第2目 弁済の目的物の供託(第494条―第498条)

第494条 (供託)
債権者が弁済の受領を拒み、又はこれを受領することができないときは、弁済をすることができる者(以下この目において「弁済者」という。)は、債権者のために弁済の目的物を供託してその債務を免れることができる。弁済者が過失なく債権者を確知することができないときも、同様とする。

第495条 (供託の方法)
前条の規定による供託は、債務の履行地の供託所にしなければならない。
2 供託所について法令に特別の定めがない場合には、裁判所は、弁済者の請求により、供託所の指定及び供託物の保管者の選任をしなければならない。
3 前条の規定により供託をした者は、遅滞なく、債権者に供託の通知をしなければならない。

第496条 (供託物の取戻し) 債権者が供託を受諾せず、又は供託を有効と宣告した判決が確定しない間は、弁済者は、供託物を取り戻すことができる。この場合においては、供託をしなかったものとみなす。
2 前項の規定は、供託によって質権又は抵当権が消滅した場合には、適用しない。

第497条 (供託に適しない物等)
弁済の目的物が供託に適しないとき、又はその物について滅失若しくは損傷のおそれがあるときは、弁済者は、裁判所の許可を得て、これを競売に付し、その代金を供託することができる。その物の保存について過分の費用を要するときも、同様とする。

第498条 (供託物の受領の要件)
債務者が債権者の給付に対して弁済をすべき場合には、債権者は、その給付をしなければ、供託物を受け取ることができない。

弁済の目的物の供託 1.5倍速

第3目 弁済による代位 (第499条―第504条)

第499条 (任意代位)
債務者のために弁済をした者は、その弁済と同時に債権者の承諾を得て、債権者に代位することができる。
2 第467条(指名債権の譲渡の対抗要件)の規定は、前項の場合について準用する。

第500条 (法定代位)
弁済をするについて正当な利益を有する者は、弁済によって当然に債権者に代位する。

第501条 (弁済による代位の効果)
前2条の規定により債権者に代位した者は、自己の権利に基づいて求償をすることができる範囲内において、債権の効力及び担保としてその債権者が有していた一切の権利を行使することができる。この場合においては、次の各号の定めるところに従わなければならない。
保証人は、あらかじめ先取特権、不動産質権又は抵当権の登記にその代位を付記しなければ、その先取特権、不動産質権又は抵当権の目的である不動産の第三取得者に対して債権者に代位することができない。
第三取得者は、保証人に対して債権者に代位しない。
第三取得者の一人は、各不動産の価格に応じて、他の第三取得者に対して債権者に代位する。
物上保証人の一人は、各財産の価格に応じて、他の物上保証人に対して債権者に代位する
保証人と物上保証人との間においては、その数に応じて、債権者に代位する。ただし、物上保証人が数人あるときは、保証人の負担部分を除いた残額について、各財産の価格に応じて、債権者に代位する。
前号の場合において、その財産が不動産であるときは、第一号の規定を準用する。

第502条 (一部弁済による代位)
債権の一部について代位弁済があったときは、代位者は、その弁済をした価額に応じて、債権者とともにその権利を行使する。
2 前項の場合において、債務の不履行による契約の解除は、債権者のみがすることができる。この場合においては、代位者に対し、その弁済をした価額及びその利息を償還しなければならない。

第503条 (債権者による債権証書の交付等)
代位弁済によって全部の弁済を受けた債権者は、債権に関する証書及び自己の占有する担保物を代位者に交付しなければならない。
2 債権の一部について代位弁済があった場合には、債権者は、債権に関する証書にその代位を記入し、かつ、自己の占有する担保物の保存を代位者に監督させなければならない。

第504条 (債権者による担保の喪失等)
第500条(法定代位)の規定により代位をすることができる者がある場合において、債権者が故意又は過失によってその担保を喪失し、又は減少させたときは、その代位をすることができる者は、その喪失又は減少によって償還を受けることができなくなった限度において、その責任を免れる。

弁済による代位 1.5倍速

第2款 相殺 (第505条―第512条)

第505条 (相殺の要件等)
二人が互いに同種の目的を有する債務を負担する場合において、双方の債務が弁済期にあるときは、各債務者は、その対当額について相殺によってその債務を免れることができる。ただし、債務の性質がこれを許さないときは、この限りでない。
2 前項の規定は、当事者が反対の意思を表示した場合には、適用しない。ただし、その意思表示は、善意の第三者に対抗することができない。

第506条 (相殺の方法及び効力)
相殺は、当事者の一方から相手方に対する意思表示によってする。この場合において、その意思表示には、条件又は期限を付することができない。
2 前項の意思表示は、双方の債務が互いに相殺に適するようになった時にさかのぼってその効力を生ずる。

第507条 (履行地の異なる債務の相殺)
相殺は、双方の債務の履行地が異なるときであっても、することができる。この場合において、相殺をする当事者は、相手方に対し、これによって生じた損害を賠償しなければならない。

第508条 (時効により消滅した債権を自働債権とする相殺)
時効によって消滅した債権がその消滅以前に相殺に適するようになっていた場合には、その債権者は、相殺をすることができる。

第509条 (不法行為により生じた債権を受働債権とする相殺の禁止)
債務が不法行為によって生じたときは、その債務者は、相殺をもって債権者に対抗することができない。

第510条 (差押禁止債権を受働債権とする相殺の禁止)
債権が差押えを禁じたものであるときは、その債務者は、相殺をもって債権者に対抗することができない。

第511条 (支払の差止めを受けた債権を受働債権とする相殺の禁止)
支払の差止めを受けた第三債務者は、その後に取得した債権による相殺をもって差押債権者に対抗することができない。

第512条 (相殺の充当)第488条(弁済の場所)から第491条(元本、利息及び費用を支払うべき場合の充当)までの規定は、相殺について準用する。

相殺 1.5倍速

第3款 更改(第513条―第518条)

第513条 (更改)
当事者が債務の要素を変更する契約をしたときは、その債務は、更改によって消滅する。
2 条件付債務を無条件債務としたとき、無条件債務に条件を付したとき、又は債務の条件を変更したときは、いずれも債務の要素を変更したものとみなす。

第514条 (債務者の交替による更改)
債務者の交替による更改は、債権者と更改後に債務者となる者との契約によってすることができる。ただし、更改前の債務者の意思に反するときは、この限りでない。

第515条 (債権者の交替による更改)
債権者の交替による更改は、確定日付のある証書によってしなければ、第三者に対抗することができない。

第516条
第468条第1項(指名債権の譲渡における債務者の抗弁)の規定は、債権者の交替による更改について準用する。

第517条 (更改前の債務が消滅しない場合)
更改によって生じた債務が、不法な原因のため又は当事者の知らない事由によって成立せず又は取り消されたときは、更改前の債務は、消滅しない。

第518条 (更改後の債務への担保の移転)
更改の当事者は、更改前の債務の目的の限度において、その債務の担保として設定された質権又は抵当権を更改後の債務に移すことができる。ただし、第三者がこれを設定した場合には、その承諾を得なければならない。

更改 1.5倍速

第4款 免除(第519条)

第519条
債権者が債務者に対して債務を免除する意思を表示したときは、その債権は、消滅する。

免除 1.5倍速

第5款 混同(第520条)

第520条
債権及び債務が同一人に帰属したときは、その債権は、消滅する。ただし、その債権が第三者の権利の目的であるときは、この限りでない。

混同 1.5倍速

第四節 債権の譲渡へ

第2章 契約 第一節 総則へ