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第4章 相続の承認及び放棄

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第1節 総則 (第915条―第919条)

第915条 (相続の承認又は放棄をすべき期間)
相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月以内に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない。ただし、この期間は、利害関係人又は検察官の請求によって、家庭裁判所において伸長することができる。
2 相続人は、相続の承認又は放棄をする前に、相続財産の調査をすることができる。

第916条
相続人が相続の承認又は放棄をしないで死亡したときは、前条第1項の期間は、その者の相続人が自己のために相続の開始があったことを知った時から起算する。

第917条
相続人が未成年者又は成年被後見人であるときは、第915条第1項(相続の承認又は放棄をすべき期間)の期間は、その法定代理人が未成年者又は成年被後見人のために相続の開始があったことを知った時から起算する。

第918条 (相続財産の管理)
相続人は、その固有財産におけるのと同一の注意をもって、相続財産を管理しなければならない。ただし、相続の承認又は放棄をしたときは、この限りでない。
2 家庭裁判所は、利害関係人又は検察官の請求によって、いつでも、相続財産の保存に必要な処分を命ずることができる。
3 第27条(管理人の職務)から第29条(管理人の担保提供及び報酬)までの規定は、前項の規定により家庭裁判所が相続財産の管理人を選任した場合について準用する。

第919条 (相続の承認及び放棄の撤回及び取消し)
相続の承認及び放棄は、第915条第1項(相続の承認又は放棄をすべき期間)の期間内でも、撤回することができない。
2 前項の規定は、第1編(総則)及び前編(親族)の規定により相続の承認又は放棄の取消しをすることを妨げない。
3 前項の取消権は、追認をすることができる時から六箇月間行使しないときは、時効によって消滅する。相続の承認又は放棄の時から十年を経過したときも、同様とする。
4 第2項の規定により限定承認又は相続の放棄の取消しをしようとする者は、その旨を家庭裁判所に申述しなければならない。

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第2節 相続の承認

第1款 単純承認 (第920条・第921条)

第920条 (単純承認の効力)
相続人は、単純承認をしたときは、無限に被相続人の権利義務を承継する。

第921条 (法定単純承認)
次に掲げる場合には、相続人は、単純承認をしたものとみなす。
相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき。ただし、保存行為及び第602条の
(短期賃貸借)に定める期間を超えない賃貸をすることは、この限りでない。
相続人が第915条第1項(相続の承認又は放棄をすべき期間)の期間内に限定承認又は相続の放棄をしなかったとき。
相続人が、限定承認又は相続の放棄をした後であっても、相続財産の全部若しくは一部を隠匿し、私にこれを消費し、又は悪意でこれを相続財産の目録中に記載しなかったとき。ただし、その相続人が相続の放棄をしたことによって相続人となった者が相続の承認をした後は、この限りでない。

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第2款 限定承認 (第922条―第937条)

第922条 (限定承認)
相続人は、相続によって得た財産の限度においてのみ被相続人の債務及び遺贈を弁済すべきことを留保して、相続の承認をすることができる。

第923条 (共同相続人の限定承認)
相続人が数人あるときは、限定承認は、共同相続人の全員が共同してのみこれをすることができる。

第924条 (限定承認の方式)
相続人は、限定承認をしようとするときは、第915条第1項(相続の承認又は放棄をすべき期間)の期間内に、相続財産の目録を作成して家庭裁判所に提出し、限定承認をする旨を申述しなければならない。

第925条 (限定承認をしたときの権利義務)
相続人が限定承認をしたときは、その被相続人に対して有した権利義務は、消滅しなかったものとみなす。

第926条 (限定承認者による管理)
限定承認者は、その固有財産におけるのと同一の注意をもって、相続財産の管理を継続しなければならない。
2 第645条(受任者による報告)、第646条(受任者による受取物の引渡し等)、第650条第1項(受任者による費用等の償還請求)及び第2項(委任者に対する代位弁済請求)並びに第918条第2項(家庭裁判所の相続財産の保存処分命令)及び第3項(家庭裁判所による相続財産管理人の選任)の規定は、前項の場合について準用する。

第927条 (相続債権者及び受遺者に対する公告及び催告)
限定承認者は、限定承認をした後五日以内に、すべての相続債権者(相続財産に属する債務の債権者をいう。以下同じ。)及び受遺者に対し、限定承認をしたこと及び一定の期間内にその請求の申出をすべき旨を公告しなければならない。この場合において、その期間は、二箇月を下ることができない。
2 前項の規定による公告には、相続債権者及び受遺者がその期間内に申出をしないときは弁済から除斥されるべき旨を付記しなければならない。ただし、限定承認者は、知れている相続債権者及び受遺者を除斥することができない。
3 限定承認者は、知れている相続債権者及び受遺者には、各別にその申出の催告をしなければならない。
4 第1項の規定による公告は、官報に掲載してする。

第928条 (公告期間満了前の弁済の拒絶)
限定承認者は、前条第1項(相続債権者及び受遺者への請求の申し出をすべき旨の公告)期間の満了前には、相続債権者及び受遺者に対して弁済を拒むことができる。

第929条 (公告期間満了後の弁済)
第927条第1項(相続債権者及び受遺者への請求の申し出をすべき旨の公告)期間が満了した後は、限定承認者は、相続財産をもって、その期間内に同項の申出をした相続債権者その他知れている相続債権者に、それぞれその債権額の割合に応じて弁済をしなければならない。ただし、優先権を有する債権者の権利を害することはできない。

第930条 (期限前の債務等の弁済)
限定承認者は、弁済期に至らない債権であっても、前条の規定に従って弁済をしなければならない。
2 条件付きの債権又は存続期間の不確定な債権は、家庭裁判所が選任した鑑定人の評価に従って弁済をしなければならない。

第931条 (受遺者に対する弁済)
限定承認者は、前2条の規定に従って各相続債権者に弁済をした後でなければ、受遺者に弁済をすることができない。

第932条 (弁済のための相続財産の換価)
前3条の規定に従って弁済をするにつき相続財産を売却する必要があるときは、限定承認者は、これを競売に付さなければならない。ただし、家庭裁判所が選任した鑑定人の評価に従い相続財産の全部又は一部の価額を弁済して、その競売を止めることができる。

第933条 (相続債権者及び受遺者の換価手続への参加)
相続債権者及び受遺者は、自己の費用で、相続財産の競売又は鑑定に参加することができる。この場合においては、第260条第2項(共有物の分割参加請求者の対抗要件)の規定を準用する。

第934条 (不当な弁済をした限定承認者の責任等)
限定承認者は、第927条の公告若しくは催告をすることを怠り、又は同条第1項の期間内に相続債権者若しくは受遺者に弁済をしたことによって他の相続債権者若しくは受遺者に弁済をすることができなくなったときは、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。第929条(公告期間満了後の弁済)から第931条(受遺者に対する弁済)までの規定に違反して弁済をしたときも、同様とする。
2 前項の規定は、情を知って不当に弁済を受けた相続債権者又は受遺者に対する他の相続債権者又は受遺者の求償を妨げない。
3 第724条(不法行為による損害賠償請求権の期間の制限)の規定は、前二項の場合について準用する。

第935条 (公告期間内に申出をしなかった相続債権者及び受遺者)
第927条第1項(相続債権者及び受遺者への請求の申し出をすべき旨の公告)期間内に同項の申出をしなかった相続債権者及び受遺者で限定承認者に知れなかったものは、残余財産についてのみその権利を行使することができる。ただし、相続財産について特別担保を有する者は、この限りでない。

第936条 (相続人が数人ある場合の相続財産の管理人)
相続人が数人ある場合には、家庭裁判所は、相続人の中から、相続財産の管理人を選任しなければならない。
2 前項の相続財産の管理人は、相続人のために、これに代わって、相続財産の管理及び債務の弁済に必要な一切の行為をする。
3 第926条(限定承認者による管理)から前条までの規定は、第1項の相続財産の管理人について準用する。この場合において、第927条第1項中「限定承認をした後五日以内」とあるのは、「その相続財産の管理人の選任があった後十日以内」と読み替えるものとする。

第937条 (法定単純承認の事由がある場合の相続債権者)
限定承認をした共同相続人の一人又は数人について第921条第1号(相続財産の全部または一部の処分)又は第3号(相続財産の全部若しくは一部の隠匿)に掲げる事由があるときは、相続債権者は、相続財産をもって弁済を受けることができなかった債権額について、当該共同相続人に対し、その相続分に応じて権利を行使することができる。

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第3節 相続の放棄 (第938条―第940条)

第938条 (相続の放棄の方式)
相続の放棄をしようとする者は、その旨を家庭裁判所に申述しなければならない。

第939条 (相続の放棄の効力)
相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす。

第940条 (相続の放棄をした者による管理)
相続の放棄をした者は、その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければならない。
2 第645条(受任者による報告)、第646条(受任者による受取物の引渡し等)、第650条第1項(受任者による利息の償還請求)及び第2項(委任者に対する代位弁済請求)並びに第918条第2項(家庭裁判所による相続財産の保存処理命令)及び第3項(家庭裁判所による相続財産管理人の選任)の規定は、前項の場合について準用する。

相続の放棄 1.5倍速

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